ヨノイ→セリアズへの親愛の情

★軍律会議で最初に会ったときから心惹かれているのはよくわかる。
セリアズの見た目の美しさもあるだろうが、彼が死を恐れない堂々とした姿で臨んでいたこともある。
ヨノイにとっては彼の目指す武士道に近しいものであるとも捉えただろう。
2.26事件で死に遅れたヨノイはいつも「死に場所」を求めている。死に急いでいるように見えるセリアズはとても興味深い対象だったのだ。
その上でセリアズの処刑を空砲で見せかけの処刑にし、彼の命を救って収容所に連れ帰る。
この時からセリアズは「どうしたらヨノイは私を殺すだろうか?」と考えただろうし、ヨノイの心を試すような言動を繰り返すようになる。(最終的にキスという行為に行き着いてしまう。)

<原作>
ヨノイがセリアズに一目会った瞬間から惹きつけられている描写がある。

(原作より)
彼を見たとたんにヨノイの端正な顔に好奇の色が浮かび、それがすぐさま驚愕に近いなにものかに変わるのを、セリエは見逃さなかった。
(中略)
裁判が進むにつれて、セリエは、美男子のヨノイがあたりもはばからず、自分を見つめないではいられなくなってくるのに注目した。
(「影の獄にて」思索社 202ページより)

★ヨノイのセリアズに対する感情は、恋でもあり、また実際には「親愛の情」ではないかと推察する。
例えば、同性同士でもファーストインスピレーションで「あ、この人とは仲良くなれそう」「自分にどこか共通点がありそう」と思うことはある。女子校育ちの私から言わせると、女性同士でも「あの子可愛いから友達になりたい!」と思うことはよくあることだ。
無論、この映画がカネモトの事件から始まり、ハラとローレンスがオカマ談義をしていることを考えると、同性愛に近い(もしくはそれとの違いをヨノイ自身もわからなくなっている)部分はあるだろう。
また、原作ではセリエ自身も「ヨノイはぼくの顔が気に入ったんだろう」と自覚している部分がある。

人は興味深い人に会ったりあの人と親しくなりたいと考えたりすれば、その人の近くにいたくなるのは自然のことだ。
ヨノイはセリアズを捕虜長にしたいと考え、早くセリアズを治癒するよう捕虜医務長に伝える。
一方、ローレンスとハラは「なぜだろう?」と疑問を持つ。
ハラがローレンスに「お前、なぜだか知ってるか?」と問うたところ、ローレンスは「知らない」としながらも「多分彼(セリアズ)が生まれつきリーダーだ(の素質がある)からだろう」と言っている。
このときの二人には、まだヨノイがセリアズに心惹かれていることを知る由もない。(その後、牢から脱出したセリアズ&ローレンスとヨノイが対峙するシーンでは、ローレンスもハラも「ヨノイ大尉がセリアズに親愛の情を感じている」ことを既に知っている)

★軍律会議の際、ヨノイはシェイクスピアの「ハムレット」のセリフ「To be, or not to be…」をセリアズに言う。
これは「君の祖国の文学を知っているんだ」と暗にアピールしているように思える。
私たちが誰かと友人になるとき、お互いの町や学校や何かの共通点を知ると、「私もそれ知ってるよ」と話すことがないだろうか? それは暗に共通点を見い出し親しくなりたい時にそうアピールするものではないだろうか。
ヨノイはこの時無意識にセリアズに対して「イギリスの文学を知っています」とアピールしていたことになる。彼がセリアズに対して最初に見せた親愛の情である。

セリアズは「何を言い出すんだ?」と驚いた目でほかの日本軍審判員の方を見やる。ほかの日本軍の彼らとはどうやらこの男は違いそうだ、ということをこの瞬間に感じているようだ。

※原作にはこのシーンはない。

★ヨノイはヒックスリ捕虜長とセリアズを交替させたいと思っている。
しかしセリアズが如何ともしがたく反抗的な態度なので、その度に牢に入れなくてはならない。
「連れてけ」と言う時の彼の表情からはショックが読み取れるし(従卒のヤジマがかなり心配している)、「房に戻せ」と言っているときの、ヨノイの表情は沈痛の面持ちである。
また彼を牢に入れなくてはならない、捕虜長の座から遠ざけねばならないという、落胆の思いがあるのだろう。
ヨノイはローレンスに処刑を伝えたとき、「君の友人には失望した」と語っている。

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