日本軍の焦り

舞台は1942年のジャワ

日本兵たちは焦っている。
戦局の状況は一向に好転する様子はなく、いつまでも大群の捕虜たちと緊張感の中で生活している。
だからピリピリしている。何か気に障るとすぐに捕虜に手を上げる。
精神的に追い詰められているのは、実は日本兵の方である。

 

イギリス軍捕虜たちの忍耐

作品の冒頭から中盤まで、イギリス側の捕虜たちは捕虜なのにどこか安穏としているように見える。何事もなくここをやり過ごせば、きっと2、3ヶ月後には日本は降伏するさ。それまでの辛抱だ、と言って捕虜生活に甘んじて落ち着いているように見える。
ハラはローレンスに「なぜお前は自決しない? 自決すれば、俺はもっとお前のことが好きになるのに!」と言う。
ローレンスはそれに対し、「捕虜になるのも時の運だ。だから自決はしない。もちろんここからは逃げたいし、また貴方とも戦いたい!」と言って微笑む。

この日本側と捕虜側両者の関係を見るにつけ、悲しくなるほど、日本の敗色を感じさせずにはいられない。
1942年、まだ戦争が始まって一年である。終戦までにはまだ3年もあるのだ。3年!
早く降伏していたら沖縄戦も大空襲も原爆投下も避けられたかもしれなかった……と考えても後の祭りだが、もしこの頃終戦になっていたらどれほどの人命が救われたかと思うと、やるせない。

 

「リストの提出」に現れる焦り

この作品の中の登場人物たちを見るにつけ、きっと日本兵も捕虜たちも、勝ち負けは別にして、早くこの状況を終わらせたかったに違いない。

また、日本軍の焦りはヨノイ大尉がヒックスリ捕虜長に武器の専門家のリストを提出させようとしていることからもわかる。
原作によるとこれは陸軍司令部からの指示で、日本軍は武器に詳しい者たちに戦争協力をさせるためにリストをあげろと言った、と書かれている。
ここにも日本軍の敗色への焦りが滲み出ている。

このリストの提出の一件に日本軍の焦りが激しく絡み合い、クライマックスの事件が起こることとなる。

その際には”イギリス軍捕虜たちの安穏とした捕虜生活”は一転、危うい立ち場に変わってしまう。