ヨノイは中間管理職で板挟み

★ヨノイは捕虜からはCaptain と呼ばれ、部下の日本兵からは「隊長どの」「大尉どの」「所長」と呼ばれている。
収容所所長ではあるが、ジャワの日本軍本部にはそれ以上の階級の軍人がおり、いわば中間管理職。
会社で中間管理職におられる方はよくご存知だろうが、ヨノイもまた葛藤している。上と下の板挟みである。
この場合の上と下には、2つある。

ひとつ目は、上はジャワの上層部(直属の上官たち)。下は部下&捕虜たち。
上からの圧力を感じながらあの大所帯の収容所をまとめるのだから、苦労するに違いない。
(しかもヒックスリは反抗的で完全に小馬鹿にしてくるし、お気に入りのセリアズも思い通りにならないんだから、もういやんなるってもんではない。さらに映画では捕虜600人となっているが実際(原作)では4000人をまとめていたそう。)

ふたつ目は、上は帝国軍人としての自分。
そして下は敵側の捕虜に情を感じている一個人としての自分である。
特にふたつ目においては彼は精神的に板挟みであり、それが最終的に彼を追い詰めて狂気させてしまう。

★戦局は低迷を続けている、と軍律会議前に審判長のフジムラ中佐が言っているように、日本は1942年時点で敗色が強まっている。
日本軍一丸となって戦わねばならない時だった。
その使命と、捕虜たちに対する情の間で、ヨノイは揺らいでいる。

そう言えば、ヨノイは終盤までは捕虜に手をあげることはない。
むしろ、セリアズやローレンスを痛めつける自分の部下を、「やめろ!」と止めに入り、叱責するのである。

逆に、序盤から中盤まですぐに捕虜に手をあげていたハラは、クリスマスの晩に「ふぁーぜる・くりーすます=サンタクロース」になってから、それ以降のシーンでは捕虜に手をあげるシーンがない。(というか丸2日間自室にて謹慎を命じられていて出てこない。)(※原作では、残念ながらその後も出向先の飛行場建設場で多くの捕虜を手にかけている。)
これは大きな反比例を描いているようだ。

ヨノイは軍人としての使命と自分自身の感情との間で板挟みになり、精神的に追い詰められていく。
そして最終的にヒックスリ捕虜長を処刑しようとすることになる。
気持ちが爆発する、あのシーンである。

★司令部から武器の専門家リストの提出を強く迫られているヨノイは、捕虜全員に対して容赦ない態度をとる。
その自分自身を捕虜たち全員が哀れな者でも見るような目つきで凝視していることに気がついたヨノイは、ふと目を走らせる。
そこに、セリアズの姿が目に入った。
彼はその瞬間きびすを返して急いで捕虜たちのそばを離れようとする。

ここには軍人としての自分の心の隙間にセリアズが入り込んでくる(=人間の心を思い出す)のを自ら避けようとしているヨノイの心情が描かれている。
自分は帝国軍人で敵に情け容赦はしてはならない、という彼の決意と、それでもセリアズを見た瞬間に動揺する気持ちがよく表れている。