<原作>ハラ軍曹の描写

原作によるハラの描写

<原作>
ハラの背丈は実に低く、(中略)頸はないに近く、後頭部のほとんどない絶壁頭がその広い肩のうえにほぼ垂直に鎮座していた。
頭髪は濃く、漆黒だった。(中略)
顔のほうは、ほとんど真四角に近く、額は狭くて、どことなく猿人類を思わせた。
ところが、ハラの両眼ばかりは実にすばらしく美しく、容貌や容姿とまるで何の関係もないようだった。
彼の両眼は、日本人にはまれなほど大きなつぶらな瞳で、光とつやを帯び、ごく上等のシナの翡翠のような、暖かな、いきいきした輝きをもっていた。

(「影の獄にて」思索社 41〜42ページより)

「とにかく、彼の両眼をちょっとのぞいてみることだ」とロレンスはいった。
「あの眼には一点の下劣さも不誠実さの影もさしていない。太古の光を宿しているだけだ。現代の油を補給され、光を増した、明るく輝く太古の光がね。あの男には、なんとなく好きになれる、尊敬したくなるなにかがあるな。」
(同 43ページより)

ハラの瞳の描写に関しては、映画でもセリアズが「おかしな顔だ。でも、眼が美しい」とハラの顔を見ながら言うシーンがある。

また、原作から察するに、ロレンスはハラのことを決して嫌ってはいなかったことが伺える。
ロレンスがハラのことを「なんとなく好きになれる」と言った際、「わたし」はハラの粗暴ぶりを挙げて断固反対するのだが、ロレンスはハラのそういったところについて「いや、ああいうことをやっているのは彼じゃない。彼のなかの日本の神々がやることなんだ。」とハラのために弁明してみせる。
日本人と日本文化を愛したロレンスだからこそ、そう理解しているのだ。