音楽家としての坂本龍一。名曲の誕生。

映画を大いにバックアップしているのが、音楽である。誰もが聞いたことのあるメインテーマのメロディー。
ここでは音楽家としての坂本龍一について語るので、あえて彼を教授、といつもの呼び方で呼びたい。

教授は初の映画音楽を担当して、この素晴らしい曲を作り上げた。

先に言ってしまうと、実は私は教授の大ファンである。デビュー曲の「千のナイフ」から現代にいたるまで、ほぼ全ての曲を聞いているファンだ。
時代によって教授はいろんなジャンルの曲を手がけているが、この映画の頃はYMO時代で、拡声器で「痙攣の運動!」と絶叫して暴れてた頃の教授だ。(何を言ってんのかわからんという方は、YMO Taisoで検索してみてください)
私はどの時代の教授もリスペクトしていて、ライターの下積み時代にアマチュアミュージシャンたちの「SKMT Tribute」というCDのサイト向けのイントロダクション文も書かせてもらったくらいだ。(私の文章の上に教授本人からのコメントが掲載されていて、それも非常に嬉しかった。)

コンサートも何度か通っており、ピアノの生演奏で「Merry Christmas, Mr. Lawrence」を聴いたときには心を強く打たれて思わず涙があふれた。

教授は84年にフランスが作成した自身のドキュメンタリー映画「Tokyo Melody」の中で、「戦場のメリークリスマス」楽曲作成に関してこう語っている。
「サントラ作るときに、ドラマの構造に従って配置していこうと。そのときに登場人物の関係とメロディーを関係付けて、それをライトモティーフにして、オーケストレーションを変えて、その状況に合わせてアレンジしていくということをやった。具体的にいうと、セリアズとヨノイ、ハラとローレンス。二つの大きな関係があのドラマを作っているので、その二つのテーマ(曲)が建物の骨組みになっていて、そこにあの作品の映像的な力の配分を補強したり、補完したりするために、間、間に違う曲が入っている。二組のドラマを表すために存在する音楽と、映像の要素をバックアップするための音楽。」

ここに言う二組のドラマを表すテーマ曲とは、ハラとローレンスにはメインテーマの「Merry Christmas, Mr. Lawrence」。そしてセリアズとヨノイには「Sowing The Seed」。
二組のドラマが展開されるとき、それぞれのBGMが流れる。
ヨノイがセリアズの髪の毛を切り取った後に流れる「Sowing The Seed」。
ローレンスに最期の微笑みを投げかけたハラのどアップで流れる「Merry Christmas, Mr. Lawrence」。
どちらも観客にとっては印象の強いシーンで、そのBGMは耳に深く残る曲ではないだろうか。

この二曲が音楽としての骨組みとなっていることで、作品をよりドラマチックに染め上げていると言えるだろう。
映画音楽を初めて手がけたとは言え、すでにこの時“教授”坂本龍一の本領が発揮されていたようだ。

大島監督は、映画音楽については完全に任せっきりで、「どうぞよろしく」と教授にバトンタッチしただけだった。だからこそ初の映画音楽制作に悩んだ部分も多かっただろうが、結果的に教授のやりたいように制作できたのだろうと思う。

この作品以後に関わった多くの映画監督の中には、映画音楽の知識に長けた人や「映画音楽はこうあるべきだ」というこだわりを強く持っている人も多いため、そういう監督ほど音楽の制作における注文が多く、注文に応えられるよう音を作っていくのは大変な作業であるようで、2016年にフランスメディア”Qobus”へのインタビューで、”Very challenging and stressful”(挑戦であり、とてもストレスを感じる作業)と語っている。また、毎回映画音楽を手がける度に「もうこれで最後だ、もうサントラはやらないぞ」と言っているんだよ、とも語っている。