<原作>ハラはクリスマスを知っていた

突然「ふぁーぜる・くりーすます」を名乗ってローレンスの命を救う、名シーンである。

誰もが思うことは、ハラってクリスマス知っていたんだねということだろう。
観客はもちろん、作中の捕虜たちだって驚いたことである。

実は、ハラがなぜ「ふぁーぜる・くりーすます」になったのかは、原作に触れられている。

(原作)
(原作の主人公の)わたしはロレンスの言葉をさえぎって言った。
「いいかね、実にふしぎなことだったんだ。従軍牧師とヒックスリ=エリスとぼくがね、獄ではじめてのクリスマスを、なにかの形でやろうじゃないかと考えたとき、ハラみたいな人殺しが許してくれっこはないと、まず思った。ところがふしぎなんだ。ぼくらが彼にこのことを申し込みにいったら、ハラはすぐこう叫んだんだ。『ふぁーぜる・くりーすますのお祭りだな!』とね。(中略)ハラは、二つ返事で承諾してくれたんだ。(中略)ハラは、『よろしい!』とはっきり言った。(中略)この案に、ハラ自身がぞっこん打ちこんじまったんだね。(中略)とにかく、クリスマスを祝え、と強要しちまったんだ。(中略)どうも奇妙な話だ。ハラはなんで、クリスマスをそんなに高く買ったのかな。」

(「影の獄にて」思索社 54ページより)

ハラはサンタクロースのことを「ふぁーぜる・くりーすます」として知っており、何故だか収容所でそのお祭りをするのを喜んで勧めた。そして、そのお祭りがきっかけで、後日「今夜、わたし、ふぁーぜる・くりーすます」になったのだと推測される。

そういえば、映画でも、病人たちがデ・ヨンのために賛美歌を歌っていたとき、ハラが「ローレンス、何を歌っていたんだ?」と聞くとローレンスが「クリスマスの練習だ、あと一週間しかないよ」と嘘を付いているので、映画作品中でも捕虜たちに自由にクリスマスを祝わせる予定だったと考えることができる。