ヨノイの本来の人間性

★帝国軍人としての彼と、彼本来の人間は本当は違う。
元々英語と英文学を嗜むような人間である。
ローレンスに対して「できれば、満開の桜の木の下に君たち(捕虜)全員を招待してあげたい」と本音を漏らしている。
このシーンは重要だ。
彼の本来の人間性を描いているのは、このシーンと、クライマックスのセリアズの髪をひと房切り取って敬愛の意を示す、あのシーンだけだと思う。
(シーン自体は描かれてはいないが硬い地面に寝る独房のセリアズに絨毯を差し入れたりもしている。)
そのほかの彼はいつでも秩序を重んじ武士道をゆく帝国軍人そのものである。
彼がその心の中の人間らしさを敵であるローレンスにふっと漏らしたのは、まだ収容所に安穏とした空気と秩序が保たれていたからであろう。
しかし、その直後のローレンスの一言で、状況はガラリと変わる。
ローレンスが東京滞在時の思い出を雪だと語ったとき、ヨノイは「あの日も雪だった」と2.26事件のことを語り始める。
彼は満州にいて、青年将校たちの決起に参加できず、自分だけが死に遅れたと後悔の念を持っている。
「死に遅れてはいけない」との思いが蘇った彼は、思いついたように「明朝カネモトの処刑を行う!切腹だ」とハラに命じる。